dam活



 

0.出発[しゅっぱつ] 2022年10月22日(土) 小谷村観光連盟が主催する 小谷村砂防ダムツアー に参加しました。 このツアーはかなり人気があり、今年で節目となる10年になるのだとか。そして今年から新たに新コースのツアーも始まったようですが、この私が参加するツアーは従来からあるものです。 砂防ダムについてはまったくと言っていいほど私には知識がありません。そして予備知識のない新鮮な気持ちでこのツアーに参加したいという思いから、なるべくネット上での情報も遮断してネタバレしないように気を付けての参戦です。 01 マイクロバスに乗り込んでいよいよ出発です。 朝8時に集合はいいけれど、小谷村って遠いんですよ。知らない方はぜひ地図で調べていただきたいのですが、長野県の中でもほぼ新潟県よりの位置です。私は近くのお値打ちな宿に前泊して備えましたが、当日の朝集合場所に集まった参加者の方の車のナンバープレートを見たら、私よりもはるかに遠い地域からの方も多くてビビりました。 ツアー定員20名に対してこの日の参加者は11名。運転手さんを含めた運営の方4名を含めた計15人が乗り込んでのスタートです。

1.ブロック砂防堰堤[ぶろっく-さぼうえんてい] 西親沢第6号千国砂防堰堤 (高さ:8.3m 長さ:86.7m) 01 1つ目の砂防ダムに到着です。 堰堤(えんてい)に登っても良いとのことでしたので、ドキドキしながら登りました。いきなりの熱量上昇です! 下流面の離れた所から見ると、副ダムを備えた立派なダムですが、本堤はブロックを積み上げただけの比較的簡単な仕組みのようです。 ブロックを積み上げて施工した理由や、そのブロックの構造など、詳しい説明をしていただき、砂防ダムとはどういう位置付けなのかをいきなり教えていただき、お祭り騒ぎでこのツアーに参加して申し訳ないような感情を抱いたのも事実です。 砂防ダムは土石流から人の暮らしを守るためのもの。土石流が頻繁に発生するような環境にある、強固な地盤の約束の無い環境にそれらを防がなくてはならない設備を作らなくてはならない矛盾。ここでは地盤沈下や動きに追従できるこの工法が採用されたのだそうです。 5月くらいが雪解け水の影響で水量が多いそうです。この写真では写っていませんが、水流にさらされているブロックは角が取れて丸くなっていました。自然の力の強さを感じさせる説得力を感じました。

2.スリット砂防堰堤[すりっと-さぼうえんてい] 西親沢第7号千国砂防堰堤 (高さ:10m 長さ:95m) 01 2つ目の砂防ダム。 この砂防堰堤は透過型と呼ばれる種類に位置づけられるもので、中央部にスリットが設けられており、短期的に押し寄せた土砂等はきちんと堰堤が受け止める役割を果たしつつも、中長期的にはそれらを緩やかに流すように設計されている事なんだそうです。その狙いは生態系や下流域への土砂の供給などを配慮しているのだとか。土石流区間の勾配の角度等により、どのような砂防ダムの設計を採用するのかをしっかり考えて作っているのだそうです。この第7号は急勾配終了区間に配置されており、その他の砂防堰堤と連携して総合的に流出土砂の制御をしていると説明がありました。 少し離れた橋の上から見学したのですが、欲張りな私の本音は、もう少し近くから見学したいと感じたのは正直な気持ちです。荷物軽量化の為、望遠レンズを持って来なかったことも少しだけ悔やまれました。

3.鋼製フレーム構造堰堤[通称:ジャングルジム] 黒川沢里見第2号砂防堰堤 (高さ:15.5m 長さ:70.7m) 01 3つ目の砂防ダムも透過型です。 スキー場のゲレンデの横をツアーバスは急な斜面をぐいぐいと登って行き、スキーリフトの上部駅よりもさらにその上にその砂防ダムはありました。 めちゃくちゃかっこいいです。外から見ているだくじゃなくて、中に入ってもいいというのですから、もう大興奮です。見栄えが良いことから小谷村の砂防堰堤のシンボル的な位置付けなのだそうです。堰堤はコンクリートの強固なもので、中央のスリット部分に特徴的な鋼管が立体状に組まれています。 02 03

この構造物の大きさを分かりやすく伝えたいと思い、人物が入った写真をあえてここに貼ります(2枚目)。比較対象があった方が分かりやすいと思うのですが、このジャングルジムはかなり大きなしっかりとした力強い構造物なんです。 そして構造物の裏側(上流面)からしか見えない鋼管には、何者かが訪れた記念に足跡を残していったのでしょうか、かなりの枚数のステッカーが貼られていました。かなり高い位置にも貼ってあることから、積雪シーズンにウインタースポーツを目的に訪れた人たちによるメッセージなのでしょうか。 そして上流面から鋼管を見ると結構な傷が付いているのに心を動かされました。土石流とこの砂防ダム設備が戦った傷跡なのですよね。何だか少しだけ誇らしげにも見えました。

4.床固工群[とこがためこう-ぐん] 日かげ沢3号〜7号床固工 (高さ:4-5m 落差:2.3-4.1m) 01 4つ目はミニ砂防ダムをいくつも重ねたような設計です。 渓流の勾配が急であったために、小さなサイズの物をいくつも重ねたような形にしたのだとか。5m以下の砂防堰堤を床固と呼ぶのだそうです。 写真は道路から上を撮っていますが、道路の下を立体的に渓流は流れていき、道路の下にもまだこの構造物は続いています。上流側に5個、下流側に2個の計7個による設備です。1つ1つに銘板が付けられています。 冬に撮影したという写真も見せていただいたのですが、雪でこの設備がほぼほぼ見えなくなるくらいに積もっていました。

5.流路工[りゅうろ-こう] 日かげ沢高落差流路工 (長さ:130m 落差:60m) 01 5つ目は流路工という設備です。 渓流の勾配がたいへん急で、この地の斜面は浸食により過去に地すべりの崩壊が発生したそうです。 この設備では水流の勢いを少しでも弱めるために凹凸のある石張りの流路工を採用したそうです。水量が多いときは勾配が急なため、まるで滝のように見えるのだとか。 砂防ダムツアーと聞いて参加したので、最初はあれ?と思いましたが、せき止めるだけではなく、流れをコントロール(制御)したり、今ある環境をこれ以上崩壊させないための仕組み、つまりは土石流を発生させないための取り組みだと聞いて、自分の認識の甘さを自覚しました。

6.セル砂防[せる-さぼう] 土谷川奉納砂防堰堤 (高さ:10m 長さ:78.8m) 01 6つ目は見た目も珍しい、かなり大きくて迫力のある砂防ダムです。 1つあたり直径14m・高さ10mもの巨大な円筒形のセルが川の中央部に3つと、川の両岸からもダブルウォール堰堤と呼ばれる壁のような設備が2基設置されています。円筒形のセルの配置は上流部中央に1基と下流部に2基という配置です。鋼鉄製の外殻の中に現場に堆積していた土砂を詰め込んで、コンクリートで蓋をして作ったというのですから、見た目だけでなく設計思想もダイナミックですよね。 セルとセルの間は5mの間隔が開いており、通常時は川の水流を妨げることなく、水と一緒に緩やかに土砂を下流域へと運びます。 いざ土石流が発生時には、しっかりとここでそのエネルギーを受け止めて、下流へはその影響を抑えるという役目を果たすという説明がありました。 この現場までたどり着くにはかなりの山道を登ってきたのですが、周辺の山肌は過去に何度も崩れたこと痕跡が分かる生々しい場所が何ヶ所もあり、この小谷という地域がいかに土石流と戦ってきたのか、そしてその土石流が頻繁に発生する過酷な現場で、最大限に効果が期待でき、工期をなるべく短くという工夫がこういう形の砂防ダムにたどり着いたのだと思いを馳せると、土木の力と人間の知恵と工夫ってあらためて凄いと感じずにはいられません。

7.鋼製枠砂防堰堤[こうせいわく-さぼうえんてい] 大雪倉沢車坂砂防堰堤 (高さ:14m 長さ:101.1m) 01 7つ目は不透過型と透過型のハイブリッドな砂防堰堤です。 02 当初の計画では全面コンクリートでの不透過型の砂防ダムの予定だったそうですが、建設中に地盤が沈下したことにより、計画を変更して軽量化するために残りの上部は、透過型に変えた為、ハイブリッドな見た目のかっこいい堰堤となりました。(かっこいいの基準は個人の感想です) また両端はバットレス構造となっており、巨大な角の部分は技術的に作るのが難しかったとの説明がありました。記念にカドでの写真を撮ってみました。 この砂防堰堤はそれほど山奥ではなく、比較的訪れやすい場所に位置しています。

昼休み[ごはん] サンテインおたり (昼食会場) 01 揚げたての天ぷらをメインとした定食です。 お味噌汁の中のきのこや、おそばの風味と食感に長野県らしさを感じました。たいへん美味しく頂きました、ごちそうさまでした。 同じテーブル席に同席になった方々とここで初めてお話をしましたが、いちばん最初に自己紹介的なアイスブレイク的な時間があっても良かったのかな、と思いました。移動時間もそれなりにある訳で、バスの中での連帯感みたいなものはこの昼食以降に私の中では生まれました。

8.鋼製枠砂防[こうせいわく-さぼう] カクレ沢中谷東砂防堰堤 (高さ:8m 長さ:137m) 01 8つ目のこの写真は高さ8mの砂防堰堤の上に私たちが乗っている写真です。 02 鋼製の枠の中に玉形の石を詰め込んだ砂防堰堤です。湧水が多い場所で、地盤が変動してもしなやかに目的を果たすための構造なのだとか。下から見上げると、美味しい水を作り出す浄水器の濾過フィルターの巨大な設備のようにも見えましたが、ある意味当たっているのかもしれません。土砂をせき止めて水だけを上手に逃がすのですから。堰堤の手前側の玉石は見事なまでにきれいに並べて枠に収められており、芸術点が高いと感じました。

9.ワイヤーネット砂防[わいやーねっと-さぼう] 濁沢大平堀沢砂防堰堤 (高さ:3m 長さ:28.9m) 01 9つ目の砂防設備の拡大写真です。砂防堰堤という名前が付いていますが、この状況だけを見ると堰堤と呼んでいいのか素朴な疑問です。 02 ワイヤーネットはメンテナンスの為取り外されていましたので、主索と呼ばれるメインケーブルにネットを取り付ける部品だけの状態です。本当ならばこのケーブルの下に荒い目のワイヤーネットがカーテンのようにぶら下がって目的を果たすのだそうです。 03 上流から運ばれてきたばかりの生々しい土石流の堆砂が沢を埋め尽くしています。ワイヤーの位置から下流方向を写した写真です。 ツアー主催者の方のお話ですと、この堰堤をツアーの見学対象に入れるのかどうかを悩んだそうです。メンテナンス中でネットが無い状態を見せてもどうなんだろうか、と最初は見学対象から外すことを考えていたのだそうですが、小谷村が常に戦っている土石流のリアルな現場を間近で体験して欲しいという思いもあり、ツアーに入れていただいたそうです。 04 手前側はコンクリートの堰堤の上を土石流が乗り越えて流れていった痕跡を確認する事が出来ます。先週のツアー時とは見えている姿がもう変わっているそうです。 05 私たちはバスの座席に吸っているだけとはいえ、この場所に来るまではかなり大変な道のりでした。険しく細い道幅、急な坂道をひたすら登って行くのですが、スイッチバックで坂道をバスで攻めていくのは初体験でした。テレビや写真で見ているだけでは知ることの出来ない、リアルな体験型のツアーならではの経験をさせていただきました。 このような山奥に砂防堰堤を作るためには、工事にもリスクをともないます。いかに工期を短く、作業の負担を減らしたうえで、最大限の効果が期待できる砂防施設への取り組みがこの形をここでは選択する理由となったという説明にも納得です。 移動時のバスの中では必要に応じていろんなお話をしていただけます。地学お話を比較的たくさんしていただきました。小谷村の位置する場所は地質の特徴として糸魚川-静岡構造線、フォッサマグナの影響で土砂災害が絶えないこと。 私の砂防ダムに対する認識は、流れてきた土砂を受け止めるもの、そのくらいの認識しかなかったのですが、このツアーで、様々な知恵と工夫で作られた砂防堰堤を自分の目で実際に見て、そしてその地形・場所のリアルな過酷さを少しでも知る事が出来たのはたいへん有意義で貴重な体験となりました。 ツアーはこの後ももうしばらくいくつかの堰堤や場所を巡るのですが、私のこのレポートはここまでです。珍しい砂防ダムをたくさん生で見る事が出来たこと、個人では決して立ち入ることの出来ないような場所にも入らせてもらえたこと、そして何より小谷村の皆さんが自然災害と戦うための取り組みを感じる事が出来たこと、価値のある体験をさせていただきました。ありがとうございました。



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